寒い朝…目が覚めて、スポーツ新聞に目を通す。昨日まで、日米野球が開催されていたこともあり、この時期でも紙面の多くが野球関連の記事で埋められている。
 イチロー(マリナーズ)、松井秀喜(ジャイアンツ)、中村紀洋(バファローズ)、小笠原道大(ファイターズ)、松井稼頭央(ライオンズ)…。僕と同世代のプレーヤーの活躍は気になるところであるし、キューバで行なわれているインターコンチネンタル杯、FA、トレードの話題なども同様だ。ただ、今年、非常に多くの学生野球を観て来た僕としては明治神宮大会の記事をどうしても最初に探してしまう。

“早大・和田5失点敗れる”
 関西版ということも関係しているのだろうが、写真もなく、簡単なスコアと雑感のみが記された記事を見付ける。
 既に自由獲得枠でホークスへの入団が決まっている和田毅(早稲田大)投手は、今ドラフトで最も高い評価を受けていると思われる注目選手。その和田が“高校、大学と果たせなかった日本一をプロで目指す”という記事であったが、肝心な和田の投球内容に関しては6回で被安打8、失点5という結果しか分からなかった。
 僕はすぐに携帯電話のメモリーから〈近大・古谷純一〉を呼び出し、通話ボタンを押した。
「おはよう、古谷君。朝早くにゴメンなぁ。起きとった?」
「おはようございます。起きていました。それにしても島尻さん、珍しく早起きですね。一体どうしたんですか?」
「ちょっと昨日の和田について教えて欲しくてねぇ」
「寒さとか、疲労は関係なさそうでしたね。でも、マウンド上で肘の出方や、ボールのリリースポイントをしきりに気にしていましたよ。で、四球が多くて、走者を溜めた後にガツンとやられる。負ける時の典型的なパターンでしたね」
 近畿大硬式野球部の“敏腕マネージャー”である古谷は関西学生野球連盟の連盟委員でもあり、明治神宮大会の運営に携わる一人として東京に行っているのだ。
「サンキュー、おかげで“ちょっとスッキリ”したわ」
「いえいえ、また今日も御報告させて戴きます」
 要件は済んだ。いつもならば、ここで無駄話の一つでもするのだろうが、朝一番で古谷も慌しいはずだ。僕はもう一度、礼を言ってから携帯電話を切った。

“ちょっとスッキリ”したのには訳がある。新聞では分からなかった和田の姿が頭にボンヤリと浮かんだからである。しかし、それ以上に神宮球場に足を運ばなかったことは多いに悔やまれる。
 今回は他の仕事もあったので、東京には行かない。それは事実ではあったが、エクスキューズでもあった。どうにかスケジュールの調整をすれば、東京に行くことは不可能ではなかったのだ。
“スポーツライター”の仕事は“記者”とは似ているようで異なる。“記者”は事実をニュースとして正確に伝えるという大きな使命がある。“スポーツライター”はその事実に則した人間の心の機微を読み取る。そして、書き手のフィルターを通ることによってストーリーが膨らむ。読者がスポーツライティングを読んで、共感を覚えたり、自身の姿に投影するのはそれが要因だと思われる。これが正解、真理なのかどうかは分からないが、現時点で僕はそう信じている。だから、僕は現場に足を運ばなければいけない。“新聞”や“また聞き”では誤魔化しの文章しか書くことは出来ないのだ…。そのような自己嫌悪に陥りつつも、
「体は一つしかないもんね。全部行ける訳ないやんか」
 と、居直れるのはプラス思考なのか? 果てはエクスキューズを作るのが上手いのか? まぁ、これくらいの図々しさも必要なのかも知れない。

 あぁ、それにしても神宮は行っておけば良かったな…。今日は高校の部(中京高−延岡学園高)、大学の部(東北福祉大−亜細亜大)共に決勝戦。古谷からのメールを待っているよりも、神宮で野球を観ている方が楽しいに決まっている。寒いんだろうけれども(苦笑)。

コメント

お気に入り日記の更新

テーマ別日記一覧

最新のコメント

日記内を検索