トライアウト雑感+1

2002年11月26日
(トライアウト雑感)
 眠い目をこすりながら、阪神甲子園球場に到着したのが8:40ジャストであった。早目に家を出たまでは良かったが、携帯電話を“携帯”していないことに気付き、無念のUターン。ライター・谷上史朗との約束に10分も遅れてしまった。大変、申し訳ありませんでした…m(_ _)m
 なぜ、僕は谷上と甲子園球場で待ち合わせをしていたのか? それはトライアウト(=プロ野球12球団合同入団テスト)が10:00より開始されるからだ。
 受付でタイガース編成部の竹内孝行に挨拶をして、パスを貰う。僕と谷川の前にはテレビ朝日の取材班が来ていただけで、まだまだ甲子園球場は閑散としていた。僕は“非寒冷地使用”ゆえ寒さに滅法弱い。また、脳ミソも完全に目覚めていない。
「谷上さん、コーヒーでも飲みに行きませんか?」
 谷上を誘い、静かな甲子園球場を一度出た。そして、マクドナルドでプレミアムホットコーヒーをすすり、ハイライトにゆっくりと火を点ける。でも、単にボーッとしていた訳ではない。受付でパスと一緒に受け取ったトライアウト参加者名簿と進行予定表に目を通す。
「ウォーミングアップ、キャッチボール、フリーバッティング、シートノック、ランチ、シートバッティングの順番かぁ。終わるのは15:00くらいになるんかな?」
「投手が18人で捕手が0人。内野手4人に外野手6人の計28人っすね」
(※佐野茂樹(前ドラゴンズ)投手、白坂勝史(前ドラゴンズ)投手の2名は欠席したので、トライアウト受験者は計26名)
 などと、ブツブツ呟きながら、注目しようと思う選手名の前にボールペンで印を付けたりしていたのだ。
 9:20に再び甲子園球場へ。さすがに報道陣や、プロ球団の編成関係者。さらに社会人野球、台湾球界からもスカウトが多数駆け付けている。西濃運輸でエース格の中ノ瀬幸泰(前タイガース)と、台湾職棒の和信鯨隊で投手コーチを務める郭李建夫(前タイガース)がスタンドで
「久し振りやねぇ〜」
 と、久々の再会に固い握手を交わす姿も見受けられた。

 プロ野球選手会からの強い要望で、トライアウトは昨年から始まった。戦力外通告を受けたが、まだ現役続行を希望する選手に“公平、平等に”テストの場を設けるべきという意向が反映されたものだ。
 実施されるのはシーズン終了後の10月末と、ドラフト会議後の11月末の計2回。特に、ドラフト会議後は、来季に向けた各球団の戦力構想が具体化している。したがって、“ラストチャンス”と呼んでも良いだろう。
 
 緊張感に包まれた“ラストチャンス”で、最も強烈なオーラを発していたのは入来智(前スワローズ)投手であった。昨年はローテーションの一角を占め、スワローズのリーグ優勝に貢献したプライドもあるのだろうが、それ以上に
「俺は最高のアピールをして、まだまだ野球を続けたいんだっ!」
 という匂いがプンプンと漂っていたのである。無駄なお喋りをすることもなく黙々とウォーミングアップに励む入来の姿は、過去にバファローズ→カープ→バファローズ→ジャイアンツ→スワローズと渡り歩き(要するに5回の戦力外通告を経験している)、屈辱を必死に跳ね返そうとする逞しさにも似たハートの強さを存分に放っていた。

 シートノックが終わり、ランチの時間に。僕と谷上も球場内にあるサロン『蔦』で昼食を摂る。2人共、ポークカツカレーを注文するが、肝心なポークカツが入っていない。
「まぁ、仕方がないっすかね」
 幸いにも、支払い時も650円ではなく500円で済んだので、ポークカツのことは忘れることにした。

 ランチタイムを挟み、11:50からはシートバッティング。いよいよ投手の出番である。と、その時、報道陣の動きがにわかに慌しくなる。なんとグラウンドにシダックスのゼネラルマネージャー兼監督に就任したばかりの野村克也(前タイガース監督)が現れたのである。しかし、寒さをしのぐ意味もあったのだろうが、御丁寧にタイガースのグラウンドコートを羽織っていたのが妙に不自然であった。

 不意に出現した野村に気を取られそうになったが、このシートバッティングで目立っていたのは、やはり入来であった。気合い充分の半袖姿で、6人目の投手としてマウンドに上がる。
 村西辰彦(前ファイターズ)外野手 ショートフライ
 信原拓人(前マリーンズ)内野手 センターフライ
 根本隆輝(前タイガース)内野手 ファーストゴロエラー
 庄司大介(前ブルーウェーブ)外野手 空振り三振
 4人の打者を相手にして、ほぼ完璧と言える内容。球速はMAX141?にとどまったが、スライダーにキレもあり、制球も安定していた。吠えながら、マウンドを降りた入来自身、手応えを感じていたのではないだろうか。
 また、9人目の投手として登板した高橋一正(前スワローズ)投手も僕の目を引いた。サイドハンドから繰り出されるクセのあるストレートと、ウィニングショットのシンカーが冴え、
 根本 ピッチャーゴロ
 庄司 サードゴロ
 森山一人(前ホークス)外野手 ファーストゴロ
 村西 見逃し三振
 と、持ち味を存分に発揮。年齢的にも若いし、獲得に動き出す球団があるように思えた。

 その他にも、僕と同い年で甲子園(高校野球)のヒーローであった谷口功一(前バファローズ)投手、大野倫(前ホークス)外野手。安定した守備力を見せた野々垣武(前ホークス)内野手、バランスが良い体格をした辻田摂(前ドラゴンズ)内野手らも気になったが、今後の去就は?
 あと、野村がトライアウト終了前にグラウンドを後にしたのが、奇しくも部坂俊之(前タイガース)投手、山岡洋之(前タイガース)投手が登板する直前。
「視察したところでしゃあないやろう」
「アイツらの力は熟知しているわい」
 果たして、真意はどちらであったのか? コメントが取れなかっただけに気に掛かるところだ。

 個人的には非常に興味深く見守ったトライアウト。ただし、心なしか沈滞していた空気が漂っていたのはなぜだろう? 昨年(1回目ナゴヤ球場、2回目よみうりランド)のような物珍しさもなく、報道陣が少なかったせいもあるのかも知れないが、なんとなく開催しているという色が濃かった。
 選手会の要望で“公平、平等に”チャンスを与えるという主旨ではあるが、球団によっては秋季キャンプなどで先物買いしているのも事実。戦力編成を考えたうえで、早期の有望選手獲得は必須条件であるとは思うのだが、これでは“公平、平等に”という主旨からは大きく逸脱してしまう。結局はコネクションのある選手、球団が有利という状況は全く変わっていない。それが重苦しい“出来レース”然とした雰囲気を作っているように感じてしまった。
 来年もトライアウトを実施するならば、この辺の問題もクリアにするべきであろう。

(+1)
 関西地区の各スポーツ新聞の一面は
『ノリ、ジャイアンツ入りを断る』
 といった内容であった。
 言わずと知れた、FA戦線の目玉・中村紀洋(バファローズ)の動向であるが、ジャイアンツオーナー・渡辺恒雄の発言は見落とせない。
「(中村が)ジャイアンツのクリーンアップで三塁に立ってみろ。子供が(髪型を)マネしたらどうするんだ。モヒカン、金髪は現場とフロントが欲しいと言っていたから黙っていたが、本音はああいうタイプの人間はいらない。品位が感じられない。いなくても勝つ」
 そうかぁ、モヒカン、金髪は品位が感じられないんや。昨年の今頃、僕も金髪やったなぁ。モヒカンではなかったけれども(苦笑)。
 でも、野球に品位って、最優先されるものなんかなぁ??? 確かに、中村のユニフォームの着こなしや私服センスはお世辞にも(余計なお世話やね)…。であるが、キッチリと胸を張れる成績は残しているではないか。
 まぁ、酔っ払った挙句に取材を受け、醜く前にせり出た腹。公衆の面前で、白いシャツをだらしなくズボンからハミ出していた人間に“品位うんぬん”は言われたくないもんや。

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