MVP

2002年12月1日
 昨日も草野球。11月のスケジュール表を改めて確認してみると、毎週土曜日は草野球に興じていた。ダブルヘッダーの時もあったので計6試合をこなしたことになる。特別に多い訳ではないが、投手として4試合も登板(先発完投3、リリーフ1)していることを考えると、肉体の疲労度。とりわけ右肩は悲鳴を上げている。なんせトレーニングもほとんどしていないのだから…。
 気合いだけは入っていたが、本音を言うと、登板したくなかった。ホンマに肩痛いんやもん。もう肩のどこが痛いかも分からない。ボールを投げる度に右腕全体に電気が走るような痛みを覚える。それでも、僕はマウンドに立たなければならなかった―。

 僕が所属する“CBGBイージーズ”は昭和40年生まれの人間が多い。
 奥川明、大部雅裕、岩戸浩明、高野好司、瀬戸山良二…などなど。大部は尼崎東高出身の高校球児。高野は神戸学院大時代にベストナイン(二塁手)に輝き、瀬戸山は名門・江の川高で厳しくもレベルの高い野球を経験している。さらに親交の深い“ジェイルバード”の宇都和寛、梅原勇作、土田政範らも昭和40年生まれで、あとは1〜3歳の範囲でメンバー補強をすれば、容易に“40年会メンバー”のチームが結成されるのである。
 この40年会の面々が
「このチームで若手と試合したいもんやなぁ」
 と、口を揃える。そして、奥川がすぐに段取りを組んで“40年会vs若手”の実現に至ったのだ。

「若手チームはお前が仕切るんやで」
「30歳目前の分際で、若手を名乗るのはちょっと恥ずかしいんですけどぉ」
「アホ〜、充分に若手じゃい」
 奥川とのやり取りがあって、僕は寄せ集めメンバーでオーダーを組んだ。
「く、苦しい…」
 思わず僕は頭を抱えた。寄せ集めメンバーに物足りなさを覚えたのではない。“40年会”もリードオフマン・岩戸、強打の高野は都合により欠席。ただ、奥川、大部を筆頭に投手陣は充実している。しかし、こっちは投手がいないのだ。助っ人でやって来る大阪ガス・稲田学を登板させる訳にも行かないし…。

「島尻さん、今日もストレート中心で行きますか?」
 試合前の投球練習後。捕手の川北信也が尋ねて来た。
「う〜ん…。なんかストレートが走らんわ。どないしよう?」
 僕は右肩をゆっくり回しながら、答えにならない応対。不安と迷いを引きずったまま試合は始まってしまった。

 嫌な予感は的中。1回表、1番、2番と簡単に打ち取るが、ストレートで空振りが取れない。3番の瀬戸山にアウトコースのストレートをレフト線に巧く流し打ちされてツーベース。続く4番の宇都はシュートで詰まらせながらもセンター前に落とされ、アッサリと1点を失う。
 その後も波に乗れない投球が続く。依然、ストレートはカットされ、決め球であるはずのスライダーも簡単に振ってくれない。また、ピッチャーゴロをファーストへ悪送球するなど“若手”のピンチを拡げて、3回までに3失点と散々な内容であった。
 かたや“40年会”は先発投手の大部が緩いボールを軸に、4回ワンアウトまでパーフェクトの好投。勝利の女神は“40年会”に微笑み掛けていた。

 試合はその後、膠着状態に突入する。僕は走らないストレートに見切りを付け、スライダーとチェンジアップ気味のシュート主体の投球スタイルに切り換えた。いつもより奪三振ははるかに少なかったが、僅か4球で終わったイニングもあり
「ふ〜ん、悪ければ悪いなりの投球術ってあるんやなぁ」
と、頭ではなく、体で実感していたのだ。肩に痛みを覚えているだけに、球数が少なくて済むのは大助かりだ。“身に染みて分かる”とはこういうことを言うのだろう。

 6回裏。ようやく“若手”は大部のスローボールにタイミングが合って来る。稲田がレフト前にタイムリーヒットを放ち、4番・久能令司が四球で粘る。5番の僕に打順が回って来たところで、1−3と2点のビハインドで、ツーアウト満塁。2塁走者が稲田であることを考えると、僕がヒットを打てば同点にはなるはずだ。いつになく集中して、打席の足場を整えた。しかも、これまでに大部のスローボールに翻弄されて、サードゴロ、ピッチャーゴロと完全に抑えられている。
 初球、緩いインコースのカーブ。自打球が左足甲に当たるファール。まだポイントが早い。
「振り遅れることは絶対にないんやから、詰まり気味でええんや」
 心の中で確認をして、2球目のアウトコースのストレートを見逃す。判定はボール。そして、カウント1−1から真ん中低目のストレートが来た。バットを一閃すると、打球はライナーでセカンドの頭上を超える。
「よっしゃ、これで同点や」
 ファーストキャンバスを蹴ると、センターの宇都が送球を焦り、後逸している。久能も一塁から長駆ホームイン。遂に“若手”が“40年会”を逆転した。

 7回表。僕はなんとか軟投で“40年会”を封じ、完投勝利。投打に渡っての活躍が認められ、MVPに選ばれた。
 1本のヒットが勝負所で出たのは素直に嬉しかったし、投球面では苦しかったけれども、言葉に出来ない何か新境地みたいなものを掴むことが出来たような気がする。それだけに、このMVPは価値がある!??? 草野球人生の分岐点になるかも知れない。

 MVPで何か貰えるのか?
 な〜んにも貰えません。ただMVPと呼ばれるだけ(苦笑)。
 おまけにスポーツバーCBGBで行われた打ち上げでは、カウンター内にてメッチャ働きました。
 カクテルも作ってしまう(やや不安)スポーツライター。世界広しと言えども、僕くらいやろうなぁ。

 みなさま、ホンマにお疲れ様でした。また、対戦しましょうっ! でも、今度は浦口雅広(昨日は欠席)を投入しますので、悪しからず。

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