黄金の左腕

2002年12月2日
 NHK『サンデースポーツ』の特集で“延長17回の主役達は今”という特集が放映されていた。
“延長17回”が指し示すのは僕が以前にも書いた、4年前の第80回全国高校野球選手権準々決勝・横浜高−PL学園高の激闘である。
 主役達は両校のキャプテン。小山良男(横浜高→亜細亜大)捕手と平石洋介(PL学園高→同志社大)外野手の2人。ドラフト会議を挟み、野球への熱き想い。そして、あの“延長17回”を経験したことが、どのような意味を持っているのか? という内容のものであった。

 平石、バファローズへの入団が決まった大西宏明(近畿大)外野手らを中心に、PL学園高の同窓生が鍋を囲んでいるシーンが映し出された。その時、ちょうど平石の対面に座っていたのが、僕もしょっちゅう顔を合わせている稲田学(大阪ガス)投手。“延長17回”でPL学園高の先発投手としてマウンドに立った男である。
テレビの画面では、稲田はいつもと同じように左手で箸を持ち、鍋を突っついている。

「島尻さん、ここですよ」
 そう言われて、稲田の左肘を触らせて貰うと、内側に固い突起物があることに気付く。左肘を手術した際に埋め込まれたボルトがまだ残っているのだ。
 稲田は社会人野球に進んだ後はほとんど登板の機会もなく、痛めた左肘のリハビリに励んでいる。また、試合ではネット裏の席が指定席。あの“黄金の左腕”でボールペンを握り、データを取るチャートシートに小さな字を書き込んでいるのだ。ただ、稲田は漠然とチャートシートにペンを走らせている訳ではない。それがよく分かるのは、一緒にプロ野球のナイター中継を観ている時。
「次、ストレート投げたらヤバイっすよ」
「外にスライダーやな」
「ここは絶対、落として来るところっす」
 稲田は配球をバシバシと言い当てる。
“岡目八目”、外から客観的に観察していると、よく分かるとは言うものの稲田の推測にはいつも驚かされる。
「いやぁ、ムダにデータ班歴が長いだけっすよ」
 と、おどけてみせるが、これは絶対に照れ隠し。雑務と思われるデータを取る仕事でも、稲田は真剣に野球を観ているのだ。
「故障から復活したら、絶対にこの経験を活かしてやるんや」
 口に出すことはないが、そのような気持ちでいるに違いない。野球を愛しているからこそ。

「うわぁ、こんなん要らんっちゅうねん!」
「ええツモやわ〜」
 稲田は麻雀も“黄金の左腕”で打つ。是非、来年は本業の方でも“黄金の左腕”を披露して欲しいものだ。
 

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