大人の入れ知恵

2002年12月7日
 バファローズとの重複指名の結果、スワローズが1巡目指名した高井雄平(東北高)がプロ入りに気持ちが大きく傾いているようだ。
 ドラフト会議前は
「ジャイアンツ以外ならば、進学か就職」
 ドラフト前日になって
「在京セ・リーグならば」
 選択肢の幅が広がったかのようではあったが、依然、プロ入り以外の進路として、東北福祉大、新日本石油も有力とされていた。
 そして、ドラフト当日。スワローズの選択権が確定した後に笑顔を作りながらも
「曇りのち曇りです」
 と、微妙なコメントを残す。それだけに高井の今後の決断には注目していた。

 さて、ここからは憶測の話し。邪推の領域に入る。
 僕のような仕事をしていると、様々な野球界の情報を耳にする。その中で一つの悪い情報が、野球に関わって来るゴロツキ。“野球ゴロ”と呼ばれる存在である。
 その実態は定かではないが、プロ入りを志す有望選手へ巧みに擦り寄り、
「良い条件でプロに入るのは当然のこと。また、野球引退後の人生も大事」
 甘い言葉を囁き、いつの間にかアドバイザー的役割。指南役、後見人を買って出て来る人物がいるらしい。特に、これまでにプロ入りの前例がないような高校、大学、社会人の間に入るケースが多いようである。有望選手を抱えている関係者は
「ふ〜ん、プロに選手を送り込む際には、こういう人物の存在があるものなのだ」
 それが常識であるかのように思い込んでしまうし、百戦錬磨のプロ側も狙いを定めた有望選手を確実に獲得出来るのならば、この“野球ゴロ”という存在を利用すれば良い。ただ、そこに高額、小額に関わらない金銭の動きが発生することは言うまでもないだろう。
 本来、野球界全体の隆盛、戦力の均衡化、契約金高騰の抑制を目的にしたドラフト会議はもはや有名無実化。そして、ここ数年の逆指名制度、自由獲得枠といった制度の確立はこのようなダーティーな歪みを助長させているだけのように思えて仕方がない。
 さらに、最終的に自身で下した結論であるのならまだしも、余計な“大人の入れ知恵”で野球人生を振り回されてしまうことになる選手はもっと可哀相だ。
 ドラフト会議の根本を見直さなければいけない時期を迎えているのは明らかである。

 今回、高井は御両親と相談したうえで、自らの決断でスワローズ入りすることになりそうだ。どうやら“野球ゴロ”の存在は無縁だったようである。是非、高く買われた力量を発揮、成長。そして、野球界に新風を巻き起こすことを期待したい。

 現在、バファローズで打撃コーチを務める正田耕三のプロ入り時のエピソードが好きだ。
 正田は和歌山県出身で、熱烈なタイガースファンであった。社会人野球の新日鐵広畑時代も、タイガースが勝った翌日のスポーツ新聞をスクラップする程。
 そして、84年秋のドラフト会議、正田はカープから即戦力の期待を受け、2位指名された。
「正田はガチガチの“虎党”やからな。カープには行かへんやろう」
 と、チームメイトの誰もがそう思っていた。しかし、正田は
「タイガースは好きやけれども、自分が野球でメシを食うのはカープ。喜んで行かせて貰います」
 即答でカープ入りを決断したらしい。
 その後の正田の残した輝かしい実績については割愛するが、プロ入り時の気持ち一つが野球だけにとどまらない人生を、大きく左右するようにも感じてしまう。

 今回、プロ入りの夢は叶わなかったが、光原逸裕(京都産業大→JR東海)投手は
「確かに好きな球団もありますけど、それは関係ないでしょう」
 と、秋季リーグ戦終了後に語っていたし、同様に平石洋介(同志社大→トヨタ自動車)外野手も
「プロの世界で勝負出来ることに意味があるんじゃないですか」
 熱い眼差しで想いをぶつけてくれたものだ。
 2人共、その気持ちを忘れずに社会人野球で一層の飛躍を。

 身の周りに、どれだけの人間が好きなことを仕事にしている? 相応しくない言葉かも知れないが、どこかでどうにもならない現実にぶつかり、妥協している人間が大半だろう。そのことを踏まえても、日本の最高峰と呼ばれるプロ野球から声が掛かったうえに仕事となるのは、とても名誉で幸せなこと。ここに的確なアドバイスではない、私利私欲にまみれた“大人の入れ知恵”という邪魔が入ることは許せない。

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