実るとも

2002年12月25日
“ファームの試合は朝が早い。大体、昼下がりのデーゲームというのが基本で、選手は試合の始まる3、4時間以上前に球場入りしなければならない。ところが、長年の間、レギュラー選手としてナイトゲームに親しんでしまった体内時計は、意識と裏腹になかなか目覚めようとしてくれない”

 上記は僕の事実上のデビュー作・野球浪漫『階段を踏みしめながら 大友進[ライオンズ]』(週刊ベースボール2001年8月6日第33号/ベースボールマガジン社)の冒頭文である。
 まだ野球評論家・金村義明のマネージャーをしていた時に書いたもので、ベースボールマガジン社のライオンズ担当・小林光男より依頼された。
 それまでにも、ウェブ上やゴーストライターとして自身の書いた文章が雑誌などに掲載されることはあったが、“スポーツライター=島尻譲”という肩書きでは初めてのこと。よくぞ起用してくれたものである。感謝。

 自身の文章が、署名入りで雑誌に掲載される。ナルシストみたいではあるが、これは一種の快感だ。出版社が掲載誌を送ってくれるのにも関わらず、発売日にはコンビニや書店で“スポーツライター=島尻譲”の文字を真っ先に探す。
「う〜ん、載っとる、載っとる」
 さすがに声は出さないが、自然に頬は緩む。隣で立ち読みをしている人に
「これ書いたんは僕やねんで」
 と、ついついアピールしたい衝動にも駆られてしまう。まぁ、そこはグッと堪えながら、大人しくレジに直行。購入する必要もない雑誌を買ってしまうというような状況であった。
 最近は、仕事の量が増えたこともあるだろうし、“スポーツライター=島尻譲”という自覚!?も芽生えて来た。いや、正確に言うと、麻痺して来たのだ。“スポーツライター=島尻譲”の書いた文章が掲載される現実を当たり前のことと思い始めているのかも知れない。


 埼玉に1人で住んでいる母親が、携帯電話でメールを送って来ることを覚えた。コミュニケーションの手段として有効なので、非常に助かる。ありがたい。
 肝心な母親からのメールの内容は、まず近況報告。そして、御丁寧なことに僕の書いた文章の感想、指摘をしてくれる。これも大変ありがたい。
 先日、また母親からメールが届いた。いつものように近況報告→文章の感想、指摘という流れであったのだが、最後の唐突な一文に、ピストルでも突き付けられたかのような衝撃を受けた。
《“実るとも頭を垂れる稲穂かな”ですよ》

 さすが母親である。僕の性格を見抜いたうえで
「初心を忘れないで、もっと頑張りなさいよ」
 という激励も兼ねた忠告であったに違いない。

 良くも悪くも、要領と余裕を覚えた2002年も直に終わる。新たな年を迎える前にもう1度、初心を思い出して、頑張って行きたい。

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