抱負は当然、日本一
2003年1月10日 吐く息が白い。朝の9:30過ぎに近鉄生駒駅に降り立つ。
「近畿大のグラウンドまでお願いします」
運転手にそう告げると、やや手荒なドライビングでタクシーは走り出した。
近畿大のグラウンドにやって来るのは何度目だろう? 見馴れた光景を眺めながら、指折り数えていると、
「今年も近畿大には、ええ選手がおるらしいですなぁ。昨日も“ブン屋”(新聞記者)さんを乗せましたよ。そうそう、よく二岡(智宏、現ジャイアンツ)も乗せたもんですわ」
と、運転手はバックミラー越しに僕の様子を伺いつつ、話し掛けて来る。
「へぇ〜、そうなんですか」
たいした話しの進展も見せないうちに、タクシーは近畿大野球部の開明寮に到着した。
ロビーのソファーに座り、出して貰ったホットコーヒーをすする。ソファー横の壁一面には“卒業生名簿”のネームプレートが掲げられている。有藤通代、藤原満ら、往年のスタープレーヤーの名を筆頭に、現在も尚、プロ野球界で活躍する選手の名を幾つも探すことが出来る。
唐突に
「あれっ、島尻さんじゃないですか」
近畿大野球部マネージャー・古谷純一の声がする。
「おぉ、今年もヨロシク。メールと寒中お見舞い、ありがとう。でも、古谷君とここで会うなんて珍しいなぁ」
そう、古谷はマネージャーであるのだが、普段は関西学生野球連盟(今年から副委員長)に通っていることが多いのだ。
「いやぁ、新年早々なんで、僕もたまには顔を出しておかないと(笑)。島尻さんは今日、新キャプテンの取材ですよね?」
古谷はそう言いながら、今日のスポーツニッポン(関西版)を手渡してくれた。2面に田中雅彦捕手の記事が大きく扱われている。
『タイガース自由獲得枠候補 練習始め』
という大きな見出しが踊っている。
「既にエライ注目されとるやないか。来るのが遅かったみたいやね」
僕はその記事に目を通した。
「島尻さん、ドーモ、ドーモ。今年も何卒宜しくお願い致します。ちょっと僕は学校に行かなければいけないんですけれども、監督もマサヒコもちゃんと分かっていますんで」
今度は主務の島和也がやって来る。簡単な挨拶を交わし、僕はホットコーヒーを飲み干す。そして、グラウンドへ足を向けた。
グラウンドでは、田中雅が先頭に立ち、近畿大ナインがダッシュを繰り返していた。監督の榎本保はバックネット裏で、ドラム缶に火をくべている。
「今年もバンバン取り挙げて下さい。ホンマ、チーム全体の刺激にもなるんで、ありがたいですわ。期待の新人も入って来ますんでね」
榎本はいつも協力的で、PR上手。話しが伺い易い監督だ。
「次、キャッチボール!」
田中雅の快活な声が響き渡ると、近畿大ナインは入念なウォーミングアップを切り上げ、一様に汗でビッチョリになったシャツをベンチで着替え始める。
「今日はお手柔らかに。練習も早目に終わりますんで」
田中雅は僕にペコリと、頭を下げるとキャッチャーミットをポンポン叩いた。
僕は榎本、古谷と共に、バックネット裏のベンチに腰を掛け、練習を見守った。
新キャプテンとしての田中雅の評価、今年のチーム構想などを、ここにも書けないような“極秘ネタ”をふんだんに盛り込みながら榎本は語ってくれた。
話しの途中、関西学生リーグNO.1左腕の野村宏之投手が目前を通る。
「野村君、ゴッツイ体が絞れていますねぇ」
僕が榎本に問うと、
「相当、走り込んでいますね。マジメな選手ですよ。今年も“野村頼り”になりそうですわ。そうやなぁ、野村君!」
突然、榎本は大きな声でグラウンドの野村を呼び止める。事情の飲み込めない野村は振り返り、なんとなく僕に会釈。
榎本は頻繁に選手へ声を掛ける監督である。
「おいっ、そこの髪型だけジャニーズJr.みたいの。散髪せえ、言うたやないかい」
「部屋でTVゲームばかり、しているんと違うか? シッカリ勉強せなアカンぞ」
「練習が始まったら、ドンドン痩せるやないか。ちゃんとメシ食うんやで」
などと、気さくな“親父”のようにコミュニケーションを取っている。
練習終了後、
「ちょっと毎年恒例のお参りに行って来たいんですけど。インタビューはその後でも大丈夫ですか?」
田中雅は僕に断りを入れてから、生駒山の中腹にある宝山寺に向かった。僕は寮に戻り、インタビューの準備を。すると、タイガース7巡目指名の林威助外野手が段ボール箱を抱え、引っ越しの準備をしている。
「明日、入寮(虎風荘)なんです。精一杯に頑張りますので、今後も宜しくお願い致します」
忙しいにも関わらず、作業の手を休めて、挨拶にやって来る。また、用意していた色紙に“一球撃命”(勝負を決める一打を放つの意味)と、沿えたサインまでも書いてくれた。是非、自慢の打撃センスで、プロの世界でも活躍して欲しい。
予定していた田中雅のインタビューは約30分で無事に終わる。詳細は『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)に掲載されるので省かせてもらうが、
「熱い野球がしたいんですよ」
何度も語っていたのが印象的。最後には
「自分、ホンマに字がヘタクソっすからね。ちょっと恥ずかしいんですけど」
そう前置きしながらも“日本一 近畿大主将 田中雅彦”と、色紙に今年の抱負を丁寧に書き記す。特に“日本一”という文字は堂々としていて、力強い。田中雅の想いが伝わって来ると同時に、まだ観ぬ近畿大の戦いぶりが楽しみになった。
簡単な写真撮影を済ませると、榎本の御厚意で寮の食堂で食事をごちそうになる。ウドンと、茶碗いっぱいの白米に卵を和えたオカズ。よくよく考えてみれば、取材先、寮の食堂で食事を食べるのは初めてのこと。貴重な体験で、嬉しかった。田中雅と雑談をしながら、ボリュームのある昼食をペロリとたいらげてしまった次第である。
“ごちそうさまでした。とても美味しかったです”
また、近畿大の食堂で食事が食べることは出来るかな???
尚、田中雅が書いた色紙は
「自分で書いたヤツなんですけれども、戴いてしまって良いっすかね? 部屋に飾って、“日本一”になるんや。って、常に意識したいんです」
と、部屋に持ち返られた。
「近畿大のグラウンドまでお願いします」
運転手にそう告げると、やや手荒なドライビングでタクシーは走り出した。
近畿大のグラウンドにやって来るのは何度目だろう? 見馴れた光景を眺めながら、指折り数えていると、
「今年も近畿大には、ええ選手がおるらしいですなぁ。昨日も“ブン屋”(新聞記者)さんを乗せましたよ。そうそう、よく二岡(智宏、現ジャイアンツ)も乗せたもんですわ」
と、運転手はバックミラー越しに僕の様子を伺いつつ、話し掛けて来る。
「へぇ〜、そうなんですか」
たいした話しの進展も見せないうちに、タクシーは近畿大野球部の開明寮に到着した。
ロビーのソファーに座り、出して貰ったホットコーヒーをすする。ソファー横の壁一面には“卒業生名簿”のネームプレートが掲げられている。有藤通代、藤原満ら、往年のスタープレーヤーの名を筆頭に、現在も尚、プロ野球界で活躍する選手の名を幾つも探すことが出来る。
唐突に
「あれっ、島尻さんじゃないですか」
近畿大野球部マネージャー・古谷純一の声がする。
「おぉ、今年もヨロシク。メールと寒中お見舞い、ありがとう。でも、古谷君とここで会うなんて珍しいなぁ」
そう、古谷はマネージャーであるのだが、普段は関西学生野球連盟(今年から副委員長)に通っていることが多いのだ。
「いやぁ、新年早々なんで、僕もたまには顔を出しておかないと(笑)。島尻さんは今日、新キャプテンの取材ですよね?」
古谷はそう言いながら、今日のスポーツニッポン(関西版)を手渡してくれた。2面に田中雅彦捕手の記事が大きく扱われている。
『タイガース自由獲得枠候補 練習始め』
という大きな見出しが踊っている。
「既にエライ注目されとるやないか。来るのが遅かったみたいやね」
僕はその記事に目を通した。
「島尻さん、ドーモ、ドーモ。今年も何卒宜しくお願い致します。ちょっと僕は学校に行かなければいけないんですけれども、監督もマサヒコもちゃんと分かっていますんで」
今度は主務の島和也がやって来る。簡単な挨拶を交わし、僕はホットコーヒーを飲み干す。そして、グラウンドへ足を向けた。
グラウンドでは、田中雅が先頭に立ち、近畿大ナインがダッシュを繰り返していた。監督の榎本保はバックネット裏で、ドラム缶に火をくべている。
「今年もバンバン取り挙げて下さい。ホンマ、チーム全体の刺激にもなるんで、ありがたいですわ。期待の新人も入って来ますんでね」
榎本はいつも協力的で、PR上手。話しが伺い易い監督だ。
「次、キャッチボール!」
田中雅の快活な声が響き渡ると、近畿大ナインは入念なウォーミングアップを切り上げ、一様に汗でビッチョリになったシャツをベンチで着替え始める。
「今日はお手柔らかに。練習も早目に終わりますんで」
田中雅は僕にペコリと、頭を下げるとキャッチャーミットをポンポン叩いた。
僕は榎本、古谷と共に、バックネット裏のベンチに腰を掛け、練習を見守った。
新キャプテンとしての田中雅の評価、今年のチーム構想などを、ここにも書けないような“極秘ネタ”をふんだんに盛り込みながら榎本は語ってくれた。
話しの途中、関西学生リーグNO.1左腕の野村宏之投手が目前を通る。
「野村君、ゴッツイ体が絞れていますねぇ」
僕が榎本に問うと、
「相当、走り込んでいますね。マジメな選手ですよ。今年も“野村頼り”になりそうですわ。そうやなぁ、野村君!」
突然、榎本は大きな声でグラウンドの野村を呼び止める。事情の飲み込めない野村は振り返り、なんとなく僕に会釈。
榎本は頻繁に選手へ声を掛ける監督である。
「おいっ、そこの髪型だけジャニーズJr.みたいの。散髪せえ、言うたやないかい」
「部屋でTVゲームばかり、しているんと違うか? シッカリ勉強せなアカンぞ」
「練習が始まったら、ドンドン痩せるやないか。ちゃんとメシ食うんやで」
などと、気さくな“親父”のようにコミュニケーションを取っている。
練習終了後、
「ちょっと毎年恒例のお参りに行って来たいんですけど。インタビューはその後でも大丈夫ですか?」
田中雅は僕に断りを入れてから、生駒山の中腹にある宝山寺に向かった。僕は寮に戻り、インタビューの準備を。すると、タイガース7巡目指名の林威助外野手が段ボール箱を抱え、引っ越しの準備をしている。
「明日、入寮(虎風荘)なんです。精一杯に頑張りますので、今後も宜しくお願い致します」
忙しいにも関わらず、作業の手を休めて、挨拶にやって来る。また、用意していた色紙に“一球撃命”(勝負を決める一打を放つの意味)と、沿えたサインまでも書いてくれた。是非、自慢の打撃センスで、プロの世界でも活躍して欲しい。
予定していた田中雅のインタビューは約30分で無事に終わる。詳細は『週刊ベースボール』(ベースボールマガジン社)に掲載されるので省かせてもらうが、
「熱い野球がしたいんですよ」
何度も語っていたのが印象的。最後には
「自分、ホンマに字がヘタクソっすからね。ちょっと恥ずかしいんですけど」
そう前置きしながらも“日本一 近畿大主将 田中雅彦”と、色紙に今年の抱負を丁寧に書き記す。特に“日本一”という文字は堂々としていて、力強い。田中雅の想いが伝わって来ると同時に、まだ観ぬ近畿大の戦いぶりが楽しみになった。
簡単な写真撮影を済ませると、榎本の御厚意で寮の食堂で食事をごちそうになる。ウドンと、茶碗いっぱいの白米に卵を和えたオカズ。よくよく考えてみれば、取材先、寮の食堂で食事を食べるのは初めてのこと。貴重な体験で、嬉しかった。田中雅と雑談をしながら、ボリュームのある昼食をペロリとたいらげてしまった次第である。
“ごちそうさまでした。とても美味しかったです”
また、近畿大の食堂で食事が食べることは出来るかな???
尚、田中雅が書いた色紙は
「自分で書いたヤツなんですけれども、戴いてしまって良いっすかね? 部屋に飾って、“日本一”になるんや。って、常に意識したいんです」
と、部屋に持ち返られた。
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