取材時のマナー

2003年1月14日
 所用を片付け、昼過ぎ。西宮市・鳴尾浜にあるタイガーデンに到着した。 
 既に新人合同自主トレは終わっていたのだが、球児投手、カツノリ捕手、藤原通内野手らがグラウンドで汗を流している。また、期待の2年目・桜井広大外野手は室内練習場でマシンの緩い球(カーブ)を熱心に打ち込み、快音を響かせていた。

“虎番”の記者情報によると、ルーキー達はウェートトレーニングに励んでいるらしかったが、萱島大介内野手(11巡目指名)と松下圭太外野手(12巡目指名)はティー打撃を始める為に室内練習場に現れた。
 萱島はベースランニング13.29秒の俊足らしいが、打撃に関しては少しばかり非力な印象を受けた。左打者なのだが、投手寄りの右脇が甘く、重心がフワフワしている。体の力を球に上手く伝えられていないのか、打球も鋭くない。実戦で、どのように対応して行くのか注目したいものだ。俊足という持ち味を活かす術を身に付けるのが、ステップアップへの近道になるであろう。
 一方、松下はバランスが良く、シャープなスイングをしていた。体が上下せずに回転運動がキレイ。センスの良さを感じることが出来た。肩に無駄な力が入っておらず、トップからインパクトまで、バットが最短距離で出て来る。ロングヒッターというタイプではないが、数年後にはシュアな打撃を武器に活躍しそうな予感。焦ることなく、まずは体力作りをシッカリと。

 萱島、松下がティー打撃をしている最中、カツノリが室内練習場に入って来た。萱島、松下共に
「はじめまして。新入団の―」
 と、深々と頭を下げて、挨拶をしていた姿が実に初々しかった。

 その時、メーングラウンドでは異様に肩幅の広い選手が黙々と、ランニングをしていた。外野の芝生の生えている部分をゆっくりとしたペースで。髪の毛は多量の汗で滴っている。
「40分は長いですよ。疲れました」
 ランニングを終え、肩幅の広い選手はボソッと呟いた。この肩幅の広い選手の名は久保田智之(5巡目指名)。大学時代に、トルネード投法から最速153?を叩き出したダイナミックな大型右腕だ。
 40分もの間、久保田が1人でランニングをしていたのには訳がある。入寮時にベスト体重をオーバーしていたからである。今朝のスポーツ新聞には“罰走”と書かれていた。
「今、何?あるの?」
 土井麻由実(『タイガース・アイ』リポーター)が聞くと、
「98?ですね。あと、3〜4?は落とさないと」
 大柄な体格に似合わない小さくて細い声で、久保田は応える。
「へぇ〜、島尻君より重たいんだぁ。大きいねぇ〜。でも、太っては見えないけどね」
 と、土井。ちょいちょい、麻由実ネエサン。そんな要らん情報を挟まんでもええっちゅうねん(苦笑)!
 要するに、40分のランニングは体を絞る為の特別メニューであったのだ。
「でも、食べるのが大好きなんですよ。やっぱり、肉類が好きですね。あっ、焼鳥も好きです」
 久保田も萱島、松下と同様に初々しい。語尾がとても丁寧。
 焼鳥が好きならば、お酒も“イケル口”でしょ? 僕がそう尋ねると、
「ええ、結構、飲める方だと思います」
 久保田は初めて笑顔を見せた。

「でも、ベスト体重って、結局は後付けの理屈やんね?」
 また、僕が問い掛けると、久保田は少し間を置いて、
「そうですねぇ、実際に自分も(ベスト体重は)よく分からないっすね。大学3年生の時、リーグ優勝出来なかったんです。それで責任を感じて、ハードな練習をしすぎて83?まで落ちちゃったことがあるんですよ。でも、球威はあっても、球が軽かった。だから、あまり痩せてもダメなんですよね」
 僕や土井が体重オーバーを責めない優しい人間と判断したのか、久保田の口も段々と滑らかになって来た。
「肩幅が広すぎて着る服がない。ジャージばかりなんですよ」
「夜は洗濯で大変。部屋でテレビゲーム(みんなのゴルフ)をするのが唯一の楽しみです。ゴハンの量も抑え気味にしているんで(笑)」
「早くブルペンに入りたいです。ランニングは得意じゃないけれども、ピッチングではアピール出来る。そして、開幕は絶対に一軍で迎えたい。マイペースですけれども、そういう気持ちでやっています」
 などと、語ってくれた。
 しかし、その時
「久保田投手、40分間走は終わったの? 今、何?だっけ?」
 ある記者が割り込んで来た。また、久保田は
「98?ですけど…」
 と、応える。アップシューズで地面の上をグリグリやり始め、表情も堅くなる。
「あっ、これは間違いなく退屈のサインや。同じことを何度も言うのはアホらしいもんな」
 僕が心の中でそう感じていると、土井が機転を利かせて、
「あっ、久保田投手。たくさん走った後で体が冷えてしまうね。ゴメンね、長々と」
 話しを上手い具合に中断させた。

 鳴尾浜からの帰り道、土井が
「ああやって途中から話しに入って来て、質問するのはマナー違反。島尻君はどう思う? 私は途中から入ったら、絶対に質問しないよ」
と、決して、怒ってはいないのだが力説する。土井の主張はもっともだ。

 僕は新聞記者や、土井のようなリポーターと違い、比較的、日時を決めてからの単独取材が多い。従って、そのようなことをあまり考えたことがない。しかし、取材を受ける立場の人間からすれば
「また、この質問か…」
 心の中でウンザリしている部分があるのかも知れない。まぁ、奇をてらった質問ばかりする必要もないし、どうしても外せないベーシックな質問事項もある。でも、だからこそ取材を受ける立場の人間の心情も察して、思い遣りの気持ちを忘れずに。細心の注意を払って、一方的な質問を投げ掛けない取材をしたいものだ。
“気配り、目配り、心配り”やね。

 今日は鳴尾浜に行って良かった。とても勉強になった。

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