王冠グニャリ

2003年1月26日
 関西大に素晴らしいスライダーを投げる投手がいた。当時、関西大のショートストップであった浦口雅広曰く
「守備位置から見ているやんか。右打者の背中に向かっていた球が“キュッ”と曲がって、外角ギリギリにズバーンって、決まりよんねん。同じチームで良かった。いつも、そう思っとたな。あんなん打てへんで」
 という証言がオーバーでないくらいに、キレ味が鋭い“鬼スラ”(鬼のように曲がるスライダー)であった。
 その投手は“鬼スラ”を武器に、最終学年時の95年春季リーグ戦開幕カード・同志社大1回戦で、ノーヒットノーランを達成する。これで関西大は波に乗り、その後も連戦連勝。見事にリーグ優勝を果たした。投手はリーグ優勝の大きな原動力となり、ベストナインと最優秀選手に輝いている。


 バファローズの岡本晃は昨シーズン、大車輪の働きであった。
 本来はセットアッパーであるが、シーズン前半戦は故障で出遅れた守護神・大塚晶文の代わりにクローザーの役割をも務めた。監督推薦で、オールスター戦にも出場している。

 シーズン中、GS神戸にて。
「大活躍やなぁ」
 久々に会う岡本にそう声を掛けると、
「もうバテバテやで。精神的にもキツイし。好きなビールもあんまり飲まれへんねん」
 ウォーミングアップを終えて、シャツを着替えながら岡本は意外な本音を漏らす。そして、
「大学の時の方がスライダーもよう曲がっていたんやけれども、コントロールが良くなったのと、経験でカバーしているだけやな」
 と、付け加えた。

 話しは変わるが、岡本はビールの王冠(キャップ)をいとも簡単に右手の親指と中指だけでグニャリと、潰すことが出来る。
「単に力があればええ訳でもないねん。上手く言えへんけれども、コツがあんねん。誰でも出来んで。えっ、スライダーと関係があるかって? それはないんちゃうか」
 岡本は笑い飛ばした。

 昨夜、瓶ビールを飲みながら、そのことを急に思い出した。そして、卓上で無造作に散らばっている王冠の一つを手に取り、潰そうと試みる。
 中指と親指だけでは無理であったが、人差し指を沿えると、王冠は潰れた。確かに、コツみたいなものがあるような気はした。ヤミクモに力を入れると、指の腹に王冠の周囲のギザギザが食い込み、痛いだけだ。包み込むようにジワジワと、力を加えて行くと、王冠はちょうど直径の辺りで半分に折れ曲がる。でも、何度、試してみても、親指と中指だけで潰すことは出来なかった。
 コツはあるけれども、やっぱり、ある程度の握力は必要。それが最終的に出た結論であった。

 王冠を潰す荒業は“鬼スラ”とは関係ない。ヤンワリと、否定した岡本。しかし、それは非常に疑わしい!??? そう感じながら、王冠を潰すことに夢中になって、スッカリ飲み忘れてしまっていたビールを一気に喉へ流し込んだ。
「あっ…。メッチャぬるなってるやん…」
 これから王冠を潰すのは、ビールを飲み終えてからにしよう。

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